早稲田的「冒険」の世界


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早稲田的「冒険」の世界

奥島孝康 

 冒険小説というジャンルが存在するかどうかは知らないが,いわゆる熱血少年冒険小説というものが存在することは確かである。山中峯太郎の『敵中横断三百里』、南洋一郎(池田宣政)の『バルーバの冒険』、あるいは、高垣眸の『怪傑黒頭巾』に血湧き肉踊る想いを経験した戦前・戦中世代は決して少なくあるまい。戦後派の私でさえそうなのである。吉川英治の『神州天馬侠』ともなれば、これはもう世代を超えていまなお読み続けられている。

 わが国で最初に「冒険小説」の名乗りを上げる冒険をしたのが、押川春浪(1876〜1914)の『海洋冒険奇譚海底軍艦』である。デュマの向こうを張って書いたこの本は、春浪の東京専門学校に在学中の作であるが、巌谷小波の紹介により明治33年に文武堂より出版されるや、たちまち当時の青少年の心を捉え、一躍人気作家の座を獲得した。その後、『武侠の日本』『東洋武侠団』などの武侠六部作を発表したり、『冒険世界』『武侠世界』を創刊したり、鶴巻町一帯の私娼窟一掃運動、野球擁護論等で健筆を揮うなど、八面六臀、縦横無尽の大活躍を続けるが、次第にマンネリ化するとともに、酒に溺れることが多くなり、38歳の若さで歿した。

 春浪に続き、SF冒険小説の分野で冒険をしたのが、海野十三(1897〜1949)である。本学理工学部で電気工学を専攻した十三は、名探偵帆村荘六が登場する探偵小説で作家としての地位を確立する一方、『浮ぶ飛行島』『太平洋魔城』『宇宙戦隊』などのSFがかった冒険小説でも軍国少年たちを熱狂させた。春浪とは違って、十三にはやや軍国主義的傾向が強かったところが惜しまれる。

以上の二人に続くのは、なんといっても『グイン・サーガ』シリーズの栗本薫(中島梓)であるが、『山猫の夏』で日本冒険小説協会大賞を獲った船戸与一(1944〜)も注目される。船戸は探検部出身の異色の行動派作家であり、南米を舞台とする非情の冒険世界を切り拓きつつある。同じく探検部出身の直木賞作家西木正明(1940〜)にも、そのフットワークを生かした冒険小説が期待される。